すべての工程は、最良の1本をつくり上げるために。


1本の包丁ができあがるまでには様々な工程があります。

切れ味のいい包丁を作るには、ただ硬い鋼材を使えば良いというものではありません。様々な工程を経て、求める切れ味に近付けていきます。


礼頂の包丁作りではおよそ30の工程がありますが、これらすべての工程が満足のいく切れ味、お客様の使いやすさのために欠かせないものです。

いくつかの工程を省いても、同じ形のものを作ることは可能です。しかし、それでは本当に良いものは作れません。一見似ているように見えるだけの、全く違うものになってしまうのです。

どんなプロセスを踏むことで切れ味がよく使いやすい包丁ができるのか、ひたすらに考え、妥協することなく1本を鍛え上げています。

一つひとつの工程には意味があり、無駄なものはありません。たとえそれが目に見えず、数値に表れないものであっても、それらの積み重ねでしかお客様に喜んでいただける“本物”は生み出せないと考えています。



製造工程のご紹介

  鍛造   包丁の元となる鋼材を加熱して金床に置き、槌で叩いて形を整える

熱を入れて叩くことで鋼材の靭性が高くなります。いわゆる「ねばりが出る」状態です。

鍛造では鋼材自体の硬度(硬さ)は変化しませんが、靭性が高くなることで包丁にしなやかさが生まれるため、結果的に丈夫な包丁になります。


  型抜き   プレス加工/レーザー加工によって鍛造した鋼材を包丁の形に

型を抜く工程では、上から大きな圧力をかけて打ち抜くプレス加工とレーザー光線で包丁の形にカットするレーザー加工があります。礼頂では使用している鋼材の種類によってプレス・レーザーを使い分けています。

非常に硬い鋼材をプレス加工すると、その衝撃で鋼材に目に見えないほどのクラック(ひび割れ)が入る可能性があります。そこで、非常に硬い鋼材の場合はレーザー加工を行っています。


  焼き入れ   形ができた鋼材に熱を加え、冷却して硬度を上げる

切れ味のいい包丁に仕上げるためには鋼材の硬さが大切です。

焼き入れの工程で鋼材を硬くしていきますが、ただ硬いだけの刃物は欠けやすくなってしまいます。そこで必要になるのが柔軟性(ねばり)です。

硬さと柔軟性のバランスは職人の経験と腕にかかっています。


  切削   鋼材を削って薄くしていく

切れ味と包丁としての強度のバランスを考慮してギリギリまで薄くします。切削で薄く仕上げられるかは、鋼材の硬さと柔軟性に左右されます。

先の「鍛造」や「焼き入れ」の工程の出来がポイントになります。


  研磨   薄く削った鋼材を磨く

礼頂の包丁には切削のときにできる削り跡(研ぎ目)が残っています。鏡のようにピカピカに磨き上げることも可能ですが、敢えて削り跡を残すことで、食材を切ったとき、包丁に食材が付きにくくしています。

反対に、ザラザラでは引っかかりができてしまい包丁が食材に入りにくくなります。そのバランスを考慮して磨きます。

また、包丁を握ったときに指が触れる部分(背中やあご)を丸める作業も行います。細かな仕事ですが、包丁の使い心地に大きな違いが生まれます。


  刃付   包丁の刃を作る

鋭角の刃は切れ味が良くなります。しかし鋭角にし過ぎると刃持ちが悪く、欠けやすくなります。このバランスを加味して最適な角度で刃を付けます。

より切れ味の良い角度の刃を付けるために必要なのは、鋼材の硬さと柔軟性です。


  柄付け   柄を取り付ける

礼頂では、手に馴染み疲れにくくするため、八角形でやや太めの柄を使っています。すっぽりと手に収まり、指が安定して滑りにくい形になっています。

粗削りした状態の八角形の柄を面取りして磨き上げます。密度の高い木を利用しているため、しっかりと磨き上げることでニスを塗ったような美しい光沢が生まれます。




材料の一つひとつの選択は、感動を生む1本のために。


礼頂では、切れ味がよく長く愛用していただける包丁を作るため、最も適した材料を検討し、採用しています。

伝統の技術を守る姿勢を持ち続けながらも、最新の技術にも目を向け、お客様に感動していただけるような包丁を生み出すために必要な材料を選択しました。




鋼材

  R-2 (スーパーゴールド2)

粉末状の鉱物を特殊な技術で鋼材にした、非常に硬度が高いステンレス鋼材。
加熱溶解の方法では実現できない硬度を有した鋼材です。


  VG-10

加熱溶解させた原料を混ぜて作る硬度の高いステンレス鋼材。
加熱溶解で作るステンレス鋼材の中では最も硬度が高いタイプです。




伝統的な鍛冶包丁で利用されていた「はがね」は切れ味の良い包丁を作るのに向いた鋼材です。しかし、錆びやすく、食材に鉄の味が移りやすく、また手入れが難しいという欠点がありました。

礼頂が求めるクオリティの包丁を生み出すため、鋼材の研究や試作を行い、錆びにくく、かつはがねに匹敵するステンレス鋼材に辿り着きました。錆びにくく手入れが簡単であることもお客様に使い続けていただく包丁にとって大切な要素のひとつです。

伝統を守り良いものを作る姿勢と、伝統へのこだわりを捨てて良いものを作る姿勢、どちらも大切だと考えています。伝統技術も最新技術も検討し、良い包丁を作るために最適なものを選択しています。


  パッカーウッド (積層強化木)

薄い木の板を重ね合わせて圧縮することで作られる素材。

木が持つ風合いがありながら密度が高く、非常に硬い素材で水にも強い特徴があります。
柄には様々な素材の選択肢がありますが、包丁を握ったときの質感から木材を選びました。

しかし、木材は水に弱く腐食しやすい材料です。一度は密度が高く耐久性がある天然木の黒檀の柄を検討しましたが、黒檀は将来的に輸入が難しくなることが分かっている素材でした。そこで辿り着いたのが積層強化木です。非常に強度があり、密度が高いため水に強く腐食しにくく、包丁に適した素材でした。

非常に硬いため加工が難しい素材ですが、丁寧に磨くことで美しい光沢が生まれます。


化粧箱

  美濃和紙

岐阜県美濃市で作られている、伝統的な和紙です。

礼頂の包丁を手に取ったとき、感動や喜びを感じていただきたいという想いから、包丁を入れる箱にもこだわりました。

無形文化遺産に選定された美濃和紙でこだわりの化粧箱を作るため、美濃和紙の製造会社に依頼して製作しています。その風合いを生かした箱にするため、何度も試作を繰り返して現在の形に仕上げました。